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キセノン

元素記号:Xe 英語名:Xenon

原子番号

原子量

融点(℃)

沸点(℃)

宇宙存在度

54

131.29

-110.1

-107.1

4.7

 キセノンは反応性が乏しい不活性ガスのひとつで、無色、無臭の気体です。大気中には 0.087 ppm (0.0000087 % )しか存在しません。1898年5月30日、イギリスのラムゼーとトラバースは、元素の沸点の差を利用して空気を精製し、クリプトンを抽出しました。彼等は、同年7月12日、クリプトンガスを更に精製して、未知の気体元素を発見しました。元素名キセノンはギリシャ語のxenos(奇妙なもの)に因んでいます。
 キセノンは大気から精製分離されています。主要な用途はキセノンを封入したキセノンランプです。キセノンランプはたいへん明るいランプで、放たれる光は紫外線から赤外線に及んで(肉眼で見える全ての光をカバーして)います。それ故、キセノンランプを使うと太陽光に近い照明が可能となり、スライド投影機、集魚灯、内視鏡など、様々な分野で利用されています。
 ところで、キセノンとクリプトンを発見したラムゼーとトラバースは、1898年5月の中旬頃、ネオンも発見しています。彼等は2ヶ月足らずの短期間で、3つの新元素を見つけだしたことになります。さらに、ラムゼーはアルゴンとヘリウムの発見にも貢献しています。1894年、レイリーと共同で、アルゴンを発見しました。1895年には、ウラン鉱石に未知の気体元素(ヘリウムのこと)が含まれていることを確認しています。つまり、ラムゼーはラドン以外の全ての不活性ガスの発見に関わっています。1904年、ラムゼーはレイリーと共同で、ノーベル化学賞を受賞しました。

マーチソン隕石
特殊なキセノンを保持する小さな鉱物(ダイヤモンドなど)が含まれています。

コラム「太陽系を構成する元素の源」
 太陽系(あなたの体も含みます)を構成している元素は、水素と一部のヘリウムなどを除くと、恒星で合成されたものです。合成される元素の割合などは、恒星の重さと恒星の成長過程別に、理論的な研究で計算されています。この計算結果と隕石の分析結果から、太陽系を構成する元素の源を求める研究が行われつつあります。ここでは、キセノンによる研究を紹介しましょう。
 キセノンには9つの安定な同位体(原子を構成する陽子の数は同じであるが、中性子の数が異なるもの)が存在します。54個の陽子と70個の中性子を持つキセノン124、54個の陽子と72個の中性子を持つキセノン126、以下同様に、キセノン128、キセノン129、キセノン130、キセノン131、キセノン132、キセノン134、そして、キセノン136の合計9つです。元素合成理論によって、恒星で生成されるキセノンの同位体は、元素合成過程別に求められています(参照下表)。

恒星の元素合成過程によって生成されるキセノンの同位体
(p過程:陽子捕獲過程、r過程:早い中性子の捕獲過程、s過程:遅い中性子の捕獲過程)
合成過程 キセノン
124 126 128 129 130 131 132 134 136
p過程              
r過程        
s過程        

 炭素や水に富んだコンドライト(球状の粒を含んでいる石質隕石。太陽系が誕生した頃の状態を保存している。)の分析を行う際、化学処理によって成分の分類を実施すると、特殊な同位体の組成を持ったキセノンが検出されました。p過程とs過程で生成する同位体に著しく富んだキセノン成分(キセノンHLと呼ばれる)や、s過程で生成する同位体に著しく富んだキセノン成分(キセノンSと呼ばれる)です。
 話を進める前に、元素合成の過程について簡単に紹介しておきます。p過程とは、原子核(陽子や中性子で構成された原子の中心部)に、陽子(proton)をたたき込んで新元素を合成する反応です。原子核と陽子は共にプラスの電気を帯びているので、両者が近づくのは困難です。しかしながら、超新星爆発の時は爆発の勢いで反応することが可能になります。超新星爆発時には、勢いのある中性子(早い中性子)が原子核と反応して元素が合成されるr過程{(r:rapid(素早い)}も発生します。つまり、p過程とr過程で合成されたキセノンHLは超新星爆発で生成されたことが分かります。後の研究で、コンドライトに含まれているダイヤモンド(大きさは 0.000001 mm 程度)が、キセノンHLを保持していることが判明しました。
 s過程{(s:slow(遅い)}とは、遅い中性子が原子核にたたき込まれて新しい元素が合成される反応です。中性子はプラスの電気を帯びていないので、原子核に近づくことが可能であり、超新星爆発の助けは不要です。太陽の1〜3倍程度の重さで炭素に富んだ恒星の内部などで、s過程は進行しています。s過程で合成されたキセノンSは恒星の内部などで生成されたことが分かります。後の研究で、コンドライトに含まれているシリコンカーバイト(SiC)(大きさは 0.001 mm 程度)が、キセノンSを保持していることが判明しました。
 超新星爆発を起こすことができるのは、太陽の8倍以上の重さの恒星です。キセノンSを合成した恒星(太陽の1〜3倍程度の重さ)とは別の恒星です。つまり、太陽系を構成する元素は、複数の恒星によって合成された元素が混じったものであることが判明しました。
 ダイヤモンドやシリコンカーバイドのように、太陽系が誕生する前の元素に関する情報を保持している小さな鉱物は、プレソーラー粒子と呼ばれています。上に掲載したマーチソン隕石には、ダイヤモンドとシリコンカーバイトの他に、グラファイトやコランダム(ルビーやサファイアの鉱物名)がプレソーラー粒子として含まれています。

隣接元素
クリプトン
ヨウ素 キセノン セシウム
ラドン

  

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