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ハフニウム

元素記号:Hf 英語名:Hafnium

原子番号

原子量

融点(℃)

沸点(℃)

宇宙存在度

72

178.49

2230

5197

0.154

 ハフニウムは銀色の金属です。地殻には5.3ppm(0.00053%)ほど存在します。ハフニウムとジルコニウムは化学的な性質が良く似ており(コラム参照)、両元素の分離は容易ではありません。そのため、ジルコニウムに隠れてしまい、ハフニウムの発見は遅れました。コペンハーゲンにあるボーア研究所で研究していたコスターとヘベシーは、ボーア(研究所の創設者)の予測(コラム参照)に基づいて、ジルコンのX線分析を行い、1923年に第72番元素を発見しました。元素名ハフニウムは、コペンハーゲンのラテン語名 Hafnia に因んでいます。
 ハフニウムの鉱石はジルコン(ZrSiO4)とバッデレイ石(ZrO2)です。ハフニウムは中性子を良く吸収するので、原子炉内部でウランの核分裂の連鎖を抑える制御棒に利用されています。ハフニウムとジルコニウムは化学的な性質は似ていますが、中性子との反応性は正反対です。ジルコニウムはほとんど中性子を吸収しないため、原子炉内部に設置するウラン燃料棒の被膜に利用されています。原子炉で使用される素材には、両元素とも、高純度のものが必要です。
 ハフニウム176(陽子72個、中性子104個)には、ルテチウム176(陽子71個、中性子105個)が変化して誕生した成分が含まれています。この性質は、岩石などの年代を求めたり(ルテチウム-ハフニウム法)、地殻とマントルの進化を解明する研究に利用されています(コラム参照)。また、太陽系が誕生した直後に存在していたハフニウム182(陽子72個、中性子110個)は、900万年で半減するペースで、タングステン182(陽子74個、中性子108個)へと変化します。これを利用して、地球や火星などのコアの形成に関する研究が行われています(参照:タングステン)。

ZrSiO4
ジルコン
ジルコン
Kunar Province, Afghanistan

コラム「ハフニウムとジルコニウム」
 元素周期表を見ると、ハフニウムとジルコニウムは同じ列(左から4列目)に並んでいます。同じ列に並ぶ元素グループはと呼ばれ、原子の最外部の電子の状態が同じになっています。化学反応では、原子の外部の状態が重要な役割を担っているため、同じ族に属する元素の化学的な特性は類似しています。ハフニウムとジルコンの場合、原子半径と4価のイオン(両元素は4価のイオンになりやすい)の半径もほぼ等しい大きさです。(下表参照。原因は次のコラム参照。)そのため、両元素の化学的な振る舞いは極めて良く似ています。
 ついでに、イオン半径が重要な理由を紹介しておきます。それは、鉱物を構成する元素は、多くの場合、イオンの状態で働くクーロン力(プラスの電荷とマイナスの電荷が引きつけ合う力)によって結びついているからです。それ故、元素のイオン半径の大きさによって、鉱物に含まれる元素の振る舞いを議論することができるからです。例えば、ジルコニウムを主成分とするジルコンには、同程度のイオン半径をもつハフニウムが高濃度で含まれていると予測することが可能です。実際、天然のジルコンには約 10,000 ppmものハフニウムが含まれています。

ハフニウムとジルコニウムの原子半径とイオン半径
(Åはオングストロームと読みます。1Å=0.00000001 cm)
元素 ハフニウム ジルコニウム
原子半径(Å) 1.57 1.57
4価のイオン半径(Å) 0.84 0.87

コラム「ボーアのランタノイド仮説」
 原子番号57番から71番目での元素はランタン(La)によく似た化学的な性質を持つことから、ランタノイドと呼ばれています。なぜ化学的な性質が互いに類似するのか、そして、ランタノイドは何種類存在するかは、20世紀初頭の化学者にとって最大の謎でした。第72番元素(当時はまだ未発見のハフニウムのこと)もランタノイドであると考えた科学者もいます。これらの謎を解くために、原子モデルで有名なボーアは1つの仮説(ランタノイド仮説)を発表しました。ボーアの仮説を簡単に紹介しましょう。
 原子は、原子核(陽子と中性子から構成されている原子の中心部)と、その回りに存在する決められた軌道上を動き続ける電子で構成されています(ボーアの原子モデル)。原子番号が1の水素原子に含まれている陽子と電子の数はそれぞれ1個です。原子番号2のヘリウムは2個の陽子と電子が含まれています。以下同様に、原子番号の増加に伴って、陽子と電子の数は増えていきます。陽子は中心部で増えていき、原子核は大きくなります。これに対し、電子はひとつの軌道に存在できる数は決まっており、1つの軌道で全ての電子を納めることはできません。1つの軌道が埋まると、その軌道の外側にある別の軌道を電子は埋めていきます。そのため、原子番号の増加と共に、原子は大きくなっていきます。化学反応では、原子(あるいは原子の集合体である分子)の最外部が重要な働きを担っています。よって、原子核から最も遠くにある電子の状態が、それぞれの元素の化学的な性質に影響を与えています。
 そこで、ボーアは、原子の内部に特殊な軌道が隠れており、ランタノイドでは、外側の電子軌道よりも先に、内部にある特殊な軌道に電子が収まると考えました。これがボーアのランタノイド仮説です。この説によると、ランタノイドの最も外側の電子状態は同じになるので、類似する化学的な性質を説明することができます。ランタノイドの数については、3価のイオン(3個の電子が失われた状態)の色彩(下表参照)などがヒントとなりました。第64番元素のガドリニウムを中央に、色彩が対称になっています。ランタノイドの最初の元素はランタンであり、色彩の対称性でルテチウムが対応しています。つまり、ランタノイドは第71番元素のルテチウムが最後であり、周期表で、第72番元素はランタノイドの欄の右隣(ジルコニウムの下)に位置すると、ボーアは予測しました。そこで、ジルコニウムを主成分とするジルコンの分析を、自分の研究所の科学者へ薦め、ハフニウムの発見に至りました。この発見は、ボーアの仮説が正しいとする証拠になりました。
 ついでに、ランタノイドの3価イオンの半径(下表参照)を紹介します。原子番号が増えるに連れて、イオン半径が小さくなっています。この性質はランタノイド収縮と呼ばれています。原子番号が増えると、原子核にある陽子の数も増え、プラスの電荷も大きくなっていきます。マイナスの電荷を持つ電子は、原子核のプラスの電荷で引きつけられています。よって、最外部の電子が存在する軌道は、原子番号の増加と共に縮小します。ランタノイドの場合、最外部の電子の状態が同じですから、原子番号の増加で、原子の大きさが縮小します。これがランタノイド収縮が生じる理由です。ランタノイド収縮は、ハフニウムの原子半径とイオンの半径の大きさにも影響しています。これらの大きさが、ジルコニウムのものと変わらないのは、ランタノイド収縮が原因です。

ランタノイドの3価のイオンの色彩と半径(Å)
(Åはオングストロームと読みます。1Å=0.00000001 cm)
原子
番号
元素名 原子
記号
3価のイオンの特性
色 彩 半径(Å)
57  ランタン La 無色 1.172
58  セリウム Ce 無色 1.15
59  プラセオジム Pr 緑色 1.13
60  ネオジム Nd 赤紫色 1.123
61  プロメチウム Pm 桃黄色 1.11
62  サマリウム Sm 黄色 1.098
63  ユウロピウム Eu 薄桃色 1.087
64  ガドリニウム Gd 無色 1.078
65  テルビウム Tb 薄桃色 1.063
66  ジスプロシウム Dy 黄色 1.052
67  ホルミウム Ho 桃黄色 1.041
68  エルビウム Er 赤紫色 1.033
69  ツリウム Tm 緑色 1.020
70  イッテルビウム Yb 無色 1.008
71  ルテチウム Lu 無色 1.001

コラム「ジルコン中のハフニウム同位体比を使った初期地球の研究」
 ハフニウム176(陽子72個、中性子104個)には、ルテチウム176(陽子71個、中性子105個)が変化して誕生した成分が、時間の経過と共に、加わっています。この仕組みを利用すると、ネオジムの同位体と同様に、ハフニウムの同位体比を使って、地殻とマントルの進化の研究を行うことができます。ハフニウムの同位体比は、ハフニウム176とハフニウム177の比を使用します。すると、ネオジムの同位体比の進化(ネオジム中のグラフを参照)と同様に、ハフニウムの同位体比も進化します。つまり、上部マントル(地殻を構成する岩石を吐き出したマントル)のハフニウム同位体比は、地球全体のハフニウム比よりも大きくなっています。
 ハフニウムの同位体比の研究で、特に注目されているのがジルコンを用いた研究です。ジルコンには高濃度のハフニウムが含まれているため、ルテチウムから追加される成分の割合が極めて少なく、ジルコンが生成された時のハフニウム同位体比を正確に求めることができます。また、ジルコンは風化に強く、古い時代の岩石を研究するのに適しています。そこで、30億年よりも古い岩石に含まれているジルコンを用いて、ハフニウム同位体比の分析が行われました。分析結果は少ないのですが、2つの興味深い結果が報告されています。
 (1)ネオジム同位体比で観測されたデーターのばらつきが、ハフニウムでも現れるかが注目されました。分析の結果、ハフニウム同位体比のばらつきは小さく、地球全体の平均値に近いと報告されています。
 (2)上部マントルのようなネオジムの分析結果が得られている岩石が見つかっています。その岩石に含まれているジルコンのハフニウム同位体比が注目されました。結果は、ネオジムと逆で、地殻のようなハフニウム同位体比が得られています。
 今のところ、ネオジムの研究結果とハフニウムの研究結果は相容れないものとなっています。真実を解明するには、更なる研究が必要です。

隣接元素
ジルコニウム
ルテチウム ハフニウム タンタル
ラザフォルジウム

  

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