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タングステン

元素記号:W 英語名:Tungsten

原子番号

原子量

融点(℃)

沸点(℃)

宇宙存在度

74

183.84

3407

5657

0.133

 タングステンは灰白色で硬い金属です。地殻には1ppm(0.0001%)ほど存在しています。タングステンは2種類の鉱物の研究によって発見された元素です。まず、スウェーデンのシェーレが、1781年、tungsten(スウェーデン語で重い石の意)と呼ばれていた鉱物(現在名:灰重石)から、未知の元素の酸化物を発見し、タングステンと命名しました。元素名は鉱物名に因んでいます。もうひとつの鉱物は鉄マンガン重石(英語名:Wolframite)です。スペインのデルイヤール兄弟は、1783年に、鉄マンガン重石から純粋な新元素(タングステンのこと)を抽出することに成功し、鉱物名(Wolframite)に因んでウォルフラムと名付けました。その後、ウォルフラムという元素名も広く使われたため、タングステンの元素記号はWが採用されました。ドイツでは元素名もウォルフラムが使われています。
 タングステンの鉱石として、灰重石と鉄マンガン重石が利用されています。タングステンは全ての金属の中で最も融点(溶ける温度)が高い金属です。細く加工することができるので、電球のフィラメントに利用されています。炭化タングステンとコバルトの合金は、超硬合金の中で最も優れた特性を有しており、切削工具などに利用されています。タングステン182(陽子74個、中性子108個)には、太陽系が誕生した直後に存在していたハフニウムの一部{ハフニウム182(陽子72個、中性子110個)}が変化した成分が含まれており、地球のコアの形成に関する研究(コラム参照)が行われています。

CaWO4 (Fe,Mn)WO4
灰重石 鉄マンガン重石
灰重石 鉄マンガン重石(黒色部)
中国 四川省 雪宝 茨城県 西茨城郡 七会村

コラム「地球のコアの形成」
 地球内部には、珪酸塩鉱物などで構成されたマントルと、鉄やニッケルなどの金属で構成されたコアが存在しています。隕石にも、鉄ニッケル合金を主成分とする隕鉄と、鉄に乏しいエコンドライトが存在しており、隕鉄は破壊された小惑星の中心部(コア)の一部であり、その小惑星のマントルの一部と考えられるエコンドライトも存在しています。惑星内部での金属部分(コア)と岩石部分(マントル)の分離の歴史を探る研究が、タングステンを用いて、試みられています。その途中経過を紹介しましょう。
 タングステン182(陽子74個、中性子108個)にはハフニウム182(陽子72個、中性子110個)が変化して加わった成分が含まれています。ハフニウム182は、太陽系が誕生した直後にのみ存在しており、900万年で半減するペースで、タングステン182へと変化しました。
 太陽系形成の誕生初期に、ハフニウムとタングステンの存在する比率が異なる領域が生まれたとすると、タングステンに含まれるタングステン182の割合も変化します。タングステンに対するハフニウムの割合が大きい領域では、ハフニウム182の影響が大きくなり、タングステンに含まれるタングステン182の割合が多くなります。逆に、タングステンに対するハフニウムの割合が小さい領域では、タングステンに含まれるタングステン182の割合が少なくなります。この仕組みを惑星のコアの形成に関する議論に利用することができます。なぜなら、ハフニウムとタングステンは、正反対の化学的な振る舞いをするからです。その振る舞いとは、石と金属が混ざったものが溶けて、重い金属部分(コアに対応)と軽い岩石部分(マントルに対応)に分かれる際、ハフニウムは岩石部分に多く集まりますが、タングステンは金属部分に多く集まります。つまり、マントルに含まれるタングステンではハフニウムの影響が大きくなり、コアに含まれているタングステンでは、逆に、ハフニウムの影響が小さくなります。
 ハフニウムの影響の大きさを決める重要な要素がもう一つあります。コアとマントルの分離の時期です。ハフニウム182の変化によるタングステン182の生成は、太陽系形成の誕生初期に起こり、太陽系の誕生から時間の経過が短い時期ほど、多く、タングステン182は生成します。つまり、コアとマントルの分離の時期が早いほど、ハフニウム182の影響は大きくなります。
 ハフニウム182の影響の大きさとは、実際には、タングステン182とタングステン184の存在比の測定結果で、議論します。タングステン184には、別の元素が変化して生成した成分が存在しません。よって、タングステン182とタングステン184の存在比は、ハフニウムの影響(ハフニウム182から生成したタングステン182の追加)のみで、変化します。
 以上のことを理解した上で、実際のサンプルの分析結果(下表)を見ていきましょう。ハフニウムの影響の大きさを、過剰なタングステン182の大きさ(定義は表の下の注を参照)で表しています。基準物質には、太陽系が誕生した当時の情報を保持していると考えられている炭素質コンドライトを選んでいます。地球、火星、そして、月の石の全てで、過剰なタングステン182(ハフニウム182の影響)が検出されています。地球のようにマントルとコアを持っていると考えられる小惑星のマントル部分と考えられるエコンドライトでも、過剰なタングステン182が検出されており、しかも、地球などよりも、大きくなっています。逆に、小惑星のコアの一部と考えられる鉄隕石ではハフニウム182の影響が少なくなっています。

注:タングステン182とタングステン184の存在比をRとすると、下式で表すことができる
[{(サンプル中のR)/(基準物質中のR)}-1]x100
サンプル 過剰なタングステン182の大きさ(注)
 炭素質コンドライト 0(-0.01〜+0.01)%(基準)
 地球の石 +0.02〜0.04%
 火星隕石 +0.03〜0.07%
 月の石 +0.03〜0.1%
 エコンドライト(小惑星の石) +0.24〜0.32%
 鉄隕石(小惑星のコア) -0.01〜0%

 分析結果で最も注目すべき点は、地球と小惑星では10倍程度も差があることです。その原因は、まだ、解明されておらず、いくつかの仮説が提唱されています。それらを紹介しておきます。
 仮説1:地球のマントルとコアの分離が遅いとする説
 マントルとコアの分離が遅いと、ハフニウム182の多くがタングステン182へ変化してしまい、ハフニウム182の存在量は少なくなります。そのため、マントルとコアの分離が起こり、マントル部分にハフニウムが増えても、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は小さくなります。
 仮説2:ジャイアント・インパクトによりマントルとコアの混合が起こったとする説
 現在、月の起源として、最も支持されているのがジャイアント・インパクト説です。誕生直後の地球に、火星サイズの別の惑星が衝突し、宇宙空間へ飛ばされた地球の岩石部分が集積して、月が誕生したという説です。この説が正しいとすると、衝突の影響は地球内部へも及んだはずです。その時、コアとマントルが混ざり合いが起こったとすれば、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は小さくなります。
 仮説3:タングステンの振る舞いが圧力によって変化したとする説
 タングステンは岩石部分(マントル)よりも金属部分(コア)へ集まる元素ですが、その集まりやすさの程度が圧力によって弱くなるのではと考える説です。もし、この説が正しいとすると、強い圧力が生じている大きな惑星(地球)の内部では、マントル部分にタングステンが多く残り、結果として、ハフニウムの影響は小さくなります。上の表を見ると、天体が大きいほど(内部圧力が大きいほど)、ハフニウムの影響の大きさが小さくなっており、この仮説と調和しています。
 仮説4:地球の形成に長時間(1億年程度)を要したとする説
 地球は直径が10km程度の小さな惑星(微惑星という。組成は炭素質コンドライトに似ていると考えられている)が衝突合体を繰り返しながら、成長したと考えられています。衝突合体の大部分のプロセスが、1000万年程度で終わったとすると、地球内部にはハフニウム182が十分に残っており、マントルとコアの分離によって、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は大きく残っているはずです。しかし、衝突合体の大部分のプロセスが、1億年程度で終わったとすると、地球内部にはハフニウム182は残っておらず、マントル部分にあるタングステンへのハフニウムの影響は小さくなります。この説は、エコンドライト程度のハフニウムの影響を、炭素質コンドライトで薄めるようなモデルです。
まとめ
 これらのモデルが複合した仮説も提唱されています。また、別の仮説が提唱されるかもしれません。結論を出すには更なる研究が必要です。

隣接元素
モリブデン
タンタル タングステン レニウム
シーボーギウム

  

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