ホーム

白金

元素記号:Pt 英語名:Platinum

原子番号

原子量

融点(℃)

沸点(℃)

宇宙存在度

78

195.08

1772

3827

1.34

 白金は銀白色の重い金属です。地殻には 0.003 ppm (0.0000003%)しか含まれていません。人類は古くから白金を利用していました。エジプトのテーベからは白金製(不純物は多いが)の小箱が発見されています。白金を独立した金属の一種として初めて取り扱ったのはスペインのウロアだと言われています。1748年に著書の中で、コロンビアで金と共に未知の金属が採れることが紹介されています。その金属(白金のこと)は外観が銀に似ているため、スペイン語 plata (銀の意)の縮小詞 platina (小さくて愛らしい銀の意)で呼ばれていました。これが英語の元素名 Platinum の語源です。欧州では、金に比べて色が白いため、white gold (注意:リングなどに使用されているホワイトゴールドは金合金です。)とも呼ばれていました。日本名の白金は white gold の和訳です。
 白金は自然白金のほか、クーペライト(PtS)とスペリーライト(PtAs2)から得られています。白金は様々な分野で活用されている金属です。耐食性が強く、腐食性の溶液を取り扱う実験道具(白金るつぼ)に利用されています。白金の加工性は優れており、細かい加工に適しています。繊細な装飾品の製作に、白金は最適な素材です。電気の分野でも、電極の接点や熱電対(温度の測定に使う部品)などに利用されています。抗ガン剤として使用されるシスプラチンは白金の化合物です。更に、有益な触媒(しょくばい)として、広い用途(コラム参照)で利用されています。白金190(陽子78個、中性子112個)は、6500億年で半減するペースで、オスミウム186(陽子76個、中性子110個)へと変化します。この性質を利用して、外殻の物質がマントルへ供給されていることを確かめる研究(コラム参照)が進められています。

自然白金のナゲット 自然白金の結晶
自然白金(ナゲット) 自然白金(結晶)
Talil, Ural, Russia Konder, Khabarovsk, Russia

コラム「白金族元素」
 白金には性質がよく似た元素が5つ存在します。ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、そして、イリジウム(Ir)の5つの元素です。いずれも、硬くて脆い銀白色の金属で、腐食に強く、重いという共通の特徴を持っています。物理的性質と化学的性質も互いによく似ており、共存している場合が多いので、白金を含めた6つの元素は白金族元素と呼ばれています。元素周期表の中でも白金族元素は互いに隣接しています。各元素の比重と融点(溶ける温度)、そして、地殻における平均濃度のデータを下の表にまとめました。ちなみに、オスミウムは最も比重が大きい元素です。

白金属元素の特徴(注:1ppm = 0.0001%)
元素記号と元素名 比重 融点(℃) 濃度(ppm)
Ru ルテニウム 12.37 2310 0.001
Rh ロジウム 12.41 1966 0.0002
Pd パラジウム 12.02 1552 0.0006
Os オスミウム 22.59 3054 0.0004
Ir イリジウム 22.56 2410 0.000003

Pt
白金 21.45 1772 0.003

コラム「白金触媒」

 金属の表面には化学反応の速度を高める能力が備わっていることが知られています。白金の表面は代表的な例です。例えば、水素ガスと酸素ガスを反応させて水を生成する速度を高めてくれます。水素ガスは2つの水素原子が一緒になって水素分子(H2)を形成していますが、水素分子は白金の表面に吸着されると分解され、水素原子(H)になります。酸素ガスも同様に、白金の表面で分解され、酸素原子(O)になります。そして、以下のような化学反応が起こり、水(H2O)が生成します。

H + O → OH  OH + H → H2O

この一連の反応で、白金自身は変化せず、反応速度を高めます。この様な働きは触媒作用といい、この様な働きをする物質は触媒と呼ばれています。白金の触媒作用は、様々な化学物質の合成や石油の精製作業で利用されています。ここでは、自動車の排気ガスの浄化装置における触媒作用を紹介しましょう。
 排ガスの主な有害成分は窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)の3つです。浄化装置では、白金とパラジウム(白金族元素の1つ)を触媒に使って、3つの有害成分を同時に除去しています。

NHx → N2 + O2(パラジウム触媒)
2HC + CO + 3O2 → 3CO2 + H2O(白金触媒)

まず、パラジウムによって、窒素酸化物は窒素と酸素に分解されます。白金によって、炭化水素と一酸化炭素は、酸素を利用して、二酸化炭素と水に分解されます。

コラム「コアとマントルの物質的な相互作用」
 地球の表面はプレートと呼ばれる板状の岩盤で覆われており、そのプレートはゆっくりと動いています(プレートテクトニクス)。プレートの境界付近(日本は代表例)では地震が多く発生し、火山も多く存在します。しかし、火山の分布をよく調べてみると、ハワイ島などにある火山は、プレートの境界付近に存在しないことが分かります。ハワイ島に火山が存在する原因として、プレートの下方(地球深部)からプリューム(物質の上昇流)の存在が、古くから提案されていました。近年、地震データの大量分析により、プリュームにはマントルとコアの境界層(D''層)から上昇しているものもあるのではないかと考えられています。このコラムでは、プリュームと関連するハワイの溶岩に含まれているオスミウムを分析することによって、プリュームの発生元を物質科学的に解明する研究を紹介しましょう。
 オスミウムには別の元素が変化して加わる成分が存在しています。オスミウム187(陽子76個、中性子111個)には、レニウム187(陽子75個、中性子112個)が、約420億年で半減するペースで変化した成分が含まれています。オスミウム186(陽子76個、中性子110個)には、白金190(陽子78個、中性子112個)が、約6500億年で半減するペースで変化した成分が含まれています。オスミウムの分析結果は、オスミウム188を分母にとった2つの比{(オスミウム187とオスミウム188の存在比。下のグラフで横軸方向。レニウムの影響の程度と考えることができます。)と(オスミウム186とオスミウム188の存在比。下のグラフで縦軸方向。白金の影響の程度と考えることができます。)}で議論されます(注意:オスミウム188に加わる成分は無視できます)。以上のことをよく理解してから、下のグラフを見てください。

ハワイの溶岩中のオスミウム

 まず、緑色の上部マントルに注目してください。カンラン岩などのマントル捕獲岩の分析結果です。上部マントルの値を代表していると考えることができます。これに比べると、赤色のハワイの溶岩は右上方向に分布しています。
 このグラフで、横軸方向のみの変動は、レニウムの影響度が大きい物質の混入で説明することができます。マントルと地殻を比べた場合、レニウムは地殻に濃縮する元素です。オスミウムは地殻に移動するのが困難な元素です。よって、横軸方向のみの変動は地殻物質の混入で説明できます。
 縦軸方向の変動原因はよく分かっていません。黒い★マークはコンドライト(太陽系が誕生した時の情報を保持している隕石の種類)から決めた地球全体の値です。上部マントルの値とほぼ一致します。白金はオスミウムと同様に地殻に移動するのが困難な元素です。困難さが同じ程度のため、地球の全体の値と上部マントルの値が一致したと考えることができます。地殻物質も、同様の値を取ることになります。よって、地殻物質の混入で縦方向の変動を説明するとは出来ません。
 そこで提案されたのが、外部コアの影響です。地球の中心部には、鉄とニッケルを主成分とするコアが存在しています。コアは固体状態の内部コアと液体状態の外部コアに分かれています。地球は時間の経過と共に温度が下がっており、コアは徐々に固まりつつあります。つまり、時間の経過と共に、内部コアは成長し、外部コアは小さくなっています。この内部コアが成長する際、コア内部の元素の存在に偏りが発生します。固体になりやすい元素は内部コアに多く含まれるようになり、外部コアからは減っていきます。オスミウムとレニウムと白金を比べると、オスミウムが内部コアに入りやすい傾向が強いことが、鉄隕石(小惑星のコアの破片)の研究から期待されています。つまり、外部コアではオスミウムが選択的に少なくなると期待されています。もし、そうなれば、外部コアでは白金の影響も大きくなり、同時に、レニウムの影響も大きくなります。グラフ中の紫色の●は推定されている外部コアの値です。ハワイの溶岩の値は外部コアの物質の混入で説明が出来そうです。しかし、外部コアの値の推定の妥当性、全ての地殻物質において白金の影響の大きさが同程度であることの証明が必要となります。縦軸の目盛りを見てください。非常に数値の変動が小さいことが分かります。分析結果の正確さも、まだ、議論がいるのではないでしょうか。もう少し、様子を見守る必要があるのと思います。

隣接元素
パラジウム
イリジウム 白金
ダームスタチウム

  

Copyright (C) 1996-2007 iElement. All Rights Reserved.